ご挨拶
100周年を迎えて考えるべきこと
福井大学工業会理事長 堀 照夫
2023年12月10日をもって福井大学工学部は創立100周年を迎えました。工業会理事長としてこの大きな節目を迎えることができることはこの上ない喜びです。前身の福井高等工業学校設立後は、空襲、大地震、水害、学生運動などの種々の困難を乗り越え、現在の工学部がその歴史を脈々と受け継いできたことに心より敬意を申し上げます。
国立大学は専門学校等創立から数えて、順次100周年を迎えています。本学工学部は幅広い工学系分野をカバーし、学生数も全国の工学部ではトップクラスであります。機械系、電気・電子系、情報・知能系はもちろんのこと、建築・建設系、繊維・生物系、原子力関連、応用物理まで大変充実し、特に地域の産業界に多くの人材を輩出してきました。今後も引き続き優秀な人材を輩出していただけると期待しております。
一方で、日本の大学の将来については心配なことが山積で、科学技術力低下については海外の学者からも心配されるほど深刻です。自然科学分野での学術論文数で、日本の地位はこの20年余りの間に4位から10位に陥落しているのです。論文のシェアは2022年度実績で、1位の中国が27.2%、2位のアメリカが24.9%であるのに対し、日本はたったの1.9%しかありません。
大学教員がやるべきことはいろいろあるはずです。私は教育、研究、社会貢献かと考えています。教員によって、それぞれ得意、不得意はあると思います。研究成果が出なくても授業が上手な先生を私は何人も見てきました。逆に研究を主体に活動する先生には授業がおろそかになる人もおられます。私はこれまでに6人のノーベル賞受賞者の講演を聴講しました。どの受賞者もその分野を代表する大学教授でしたが、講演の前に予め「私は講義や講演はうまくはありません」と前置きして始める先生もおられました。研究も教育も社会貢献も完璧に行える先生は多くはないでしょう。大勢の教員がいる中で、得手不得手の個性は当然認められるべきだと思っています。重要なのは得意な分野、秀でた才能を有する人たちで構成されることなのかもしれません。
参考までに、私が留学したスイス、ドイツでの経験を紹介します。両国とも学生当たりの大学教員の数は多いのですが、教授の占める割合は日本の1/3程度でした。教授1名に対し、准教授が1名、講師が3~4名、助手が3~5名、教授秘書が1~3名いました。助手や秘書はほとんどが教授が獲得してきた研究費、助成金などで雇われていました。日本では医学部が類似した組織で構成されているかと思います。海外では教授まで上がれる人は一握りです。教授昇格のための厳しい試験(Habilitation)があり、私が所属した研究室でも1名は2度目の挑戦で教授に、もう一人は2度とも不合格でした。
両国での体験は私の研究室運用に大いに参考になりました。私は教授に昇格以降は企業等との共同研究やいくつかの国家プロジェクトにより年間3,000~5,000万円の研究費を確保できました。外国人および日本人の研究者を毎年数名雇い、社会人ドクター生、コースドクター学生、修士学生、卒論生で最大43名の大所帯でした。正規のスタッフは助教授1名と技官1名でしたが、この他に定年まで、研究費の一部で秘書を13年間雇いました。卒論生や修士学生などの直接指導は研究者に細かく指導していただき、いわゆる事務的な仕事や雑用は優秀な秘書に任せることができました。今では許可されないでしょうが、私の研究室はいわゆる「不夜城」でした。使用できる設備の関係で、昼夜を問わず入れ替わり立ち代わり誰かが実験をしていました。私も夕方1時間ほど抜けて自宅で夕食をとった後は深夜12時以降まで大学で仕事をしました。
活発な研究開発を進めるには何をおいても資金が必要になります。そのためにはいかに資金を得るかに掛かっています。工学部が100周年を新たな起点とし、潤沢な資金をいかに調達すべきか真剣に議論すべきと思います。100周年記念事業ではできるだけ多くの寄附金を集め、余剰金は工学部活性化のために有効利用していただきたいと思います。